5.車いす生活と褥瘡予防

厚生労働省により2002年3月に,褥瘡対策に関する通知が出されました。内容は褥瘡発生の危険の高い患者に対して,褥瘡発生予防,発症後早期からの適切な処置を含めた対策を実施する体制を整備しなければならないというものでした。
これを受けて2002年10月より医療機関では褥瘡対策に関する診療計画書の提出が必要となりました。具体的には「褥瘡対策に対する診療計画書」の中で,ベッド上での危険因子の評価と合わせて,椅子上での座位姿勢の保持,除圧の評価,看護計画を策定することなどが盛り込まれています。椅子上での対応とはシーティング対応のことです。
医療機関だけでなく,介護保険関連施設においても2006年の介護保険法の運営基準の改定により,身体拘束の対応と合わせて褥瘡予防への取り組みが義務づけられました。

(1)褥瘡の発生と好発部位 「P44~45 図3-1」
褥瘡とは「同一部位に長時間の圧迫が原因で生じる血行障害による局所の虚血性壊死」である
とされています。
褥瘡が発生する直接的な要因としては,圧力,摩擦,ずれ,皮膚の湿潤が挙げられます。全身的要因としては,低栄養状態,貧血,知覚・運動麻痺,意識障害,基礎疾患,発熱,脱水,年齢等が挙げられます。その他に病床環境,本人の意欲,家族,看護師,介護職等の関わりも挙げられます。
中でもいわゆる「寝たきり状態」での臥位で発生する褥瘡予防には,適切な座位姿勢を確保することが解決策のひとつとなります。
褥瘡は骨の突出部によくできますが,体位により好発部位は異なります。

(2)座位能力分類による対応 「P36~38 表2-2」
座位能力分類は,高齢者が椅子・車いすに座る能力を施設職員やケアマネジャー等が簡易に評価できるように開発されたものです。基本的な考え方は利用者の車いす座位能力を評価し,身体機能等に合わせた椅子を選び,適合調整することです。
ケアプランの中では,要介護度に応じた身体機能と合わせて福祉用具の活用をアセスメントする
ことが重要です。座位能力分類は,椅子に座った状態で問題点を発見し,座位能力に合わせた対応ができるので活用できると便利です。

1.Ⅰ座位に問題なし
座位姿勢が安定し両手が自由に使える状態です。また,自力で姿勢をかえることができる状態で
す。座位に特別な問題がない場合でも,車いすの座シートとバックサポートをしっかりした基本い
すにすることが重要で,指標となる椅子座位姿勢に車いす座位を近づける必要があります。

2.Ⅱ座位に問題あり
いわゆる仙骨座りで姿勢がしだいに崩れ,手で身体を支えている状態です。または自分で姿勢を
変えることができない状態を指します。車しうに座り自分で臀部の位置を変えられない利用者は,
臀部が痛くならないように臀部全体と大腿部とで体重を受け止め,「滑り座り」になりにくい臀部形
状型クッションを使用することで抑制帯を外すことができます。

次に斜め座りで横方向に倒れる場合は,車いす専用の側方パッド類でサポートします。モジュラー型車いすのバックサポートは,調節ベルトで脊柱のカーブに合わせられるものや座位補助具といわれるパッド類や背クッションが取り付けられるようになっています。一般の枕やクッションのみで車いす座位姿勢を保持することは困難です。

3.Ⅲ座位がとれない
車いすに座った段階で身体に痛み等の不具合が生じ,頭部や体幹がすぐに倒れてしまう状態です。
重度の寝たきり状態の場合は,座位保持装置付き車いすやシートとバックサポートが同じ角度のま
ま全体が傾くティルト機能とリクライニング機能を併用できるモジュラー車いすを使用します。
一般のリクライニング車いすでは,座位のとれない利用者を無理に座らせると,より滑り座りに
なるため抑制帯が必要となり,シートに尾骨部が接触するために褥瘡発生が多くなります。