(1)普通型車いすの長時間座位の問題
一般に高齢者に使用する車いすは,「標準型車いす」または「普通型車いす」(以下,車いすと略
す)と言われるタイプです。介護保険では既製品の車いすがレンタルされるので,高齢者の身体寸
法に合わせ車いすを作成することは極めて難しい状況です。ここでは高齢者の使用する車いすの問
題点を整理します。

1.寸法の不適合
車いすの多くは,いわゆるJIS規格大型が使われており,問題点として高齢者の体型との不適合があります。車いすの寸法は座幅×奥行きが約400×400㎜以上あり,一般的な後期高齢者の身体寸法から考えると,座幅,奥行きとも適合していません。座幅,奥行きが合わないだけでも,寸法の不適合は車いす座位姿勢の崩れを引き起こし,車いす駆動をはじめとするすべての動作を阻害します。

2.スリングシートの問題
車いすのすリングシートには,座位保持の視点から次のような問題点が挙げられます。
骨盤の過度の後傾により,一般に「仙骨座り(滑り座り)」と呼ばれる骨盤の後傾した座り方にな
ります(図a)。身体機能の低下や体幹筋力の低下により骨盤が後傾した「滑り座り」になるのは,
車いすのすリングシートの影響が大きいといえます。
また,長時間の不良な車いす座位により骨格に変形や拘縮が発生する可能性があります。拘縮と
しては,股関節の伸展・内転・内旋,変形としては脊柱の後彎や側彎が発生します。また,この状
態での座位は尾骨部の褥瘡の原因となります。
次に,骨盤の回旋した「滑り座り」は,左右の不均等な筋緊張や筋力の低下からも発生し,たる
んだすリングシートにより助長されます(図b)。
座った位置がスリングシートの中央に来て,両方の坐骨結節が床と平行にならなければ,坐骨の傾
斜による「斜め座り」は簡単に起こります(図C)。そして,骨盤の回旋と傾斜により,結果として
脊柱の側彎が生じてしまいます。
スリングシートの車いすは,折りたたみ機能が優先されるために,新しい車いすでもシートとバ
ックサポートの支持性は低く,スリングシートの沈み込みやその姿勢からの走行や移動に伴い,「滑
り座り姿勢」は簡単に発生します。
一般に高齢の重度障害者は,リクライニング車いすを使用する場合が多いのですが,背をリクラ
イニングさせた途中の角度は,より滑り座りを助長して,座る人も介助者も負担が大きくなります。

3.トランスファーの問題
車いすの多くは,座シートの全面の高さが約45㎝であるために,小柄な高齢者は車いすへの移乗が難しくなります。
片麻痺の方は,車いすのアームサポート,フットサポートが固定式のため,ベッドから車いすへの移乗の際,その両方がバリアとなりベッドに車いすを十分に近づけられません。また,ベルト式のレッグサポートは立ち上がり動作時に下肢を引き込むことを妨げます。
介助にてトランスファーを行う際,フットサポートの部分に脚をぶつけるという思いを利用者と介助者が経験しています。これは,フットサポートの間が約33㎝で,この間に本人の脚2本と介助者の脚1本が入り回転してトランスファーをするために引き起こされる問題です。

4.走行性の問題
自分で車いすをこぐ(自走する)場合は,車いすと身体寸法が合わないと車いすの操作性能が低下します。片麻痺者で片手片足駆動をする場合は,座シートの高さが合わないと滑り座りなどの問題が生じます。 また,車いす走行に合わせて車いすの車軸やキャスターの位置を調整することが,自走する際のポイントですが,普通型車いすでは調整できません。